東京高等裁判所 昭和27年(う)935号 判決
弁護人の控訴理由は、末尾に添付する控訴趣意書と題する書面に記載するとおりである。
ところで、判決において認定した事実に対し適用すべき法令を示すには、その法令の正文を以てするか、又はその正文の内容を確実に知り得る程度において、しなければならない。
これ罪刑法定主義の要請よりして、けだし当然のことである。しかり、而して本件において適用さるべき麻薬取締法第五七条第一項の規定は、所定の罰金刑の寡額が罰金等臨時措置法第二条第一項の規定によつて変更されたものであるから、判示事実に対し右麻薬取締法第五七条第一項の規定を適用するに当つては、この罰金等臨時措置法第二条第一項の規定を併せて示すことによつて初めて、その法定刑の如何なるものであるかを適確に了知することができ、かくのごとくにしてこそ正当に適用法条を示したことになるのである。法令の所定刑中の懲役刑を選択すべきか、罰金刑を科すべきかは、法令を適用した後の問題である。罰金刑を以て処断する場合にのみ該刑の金額の変更されている所以を示せば足り、懲役刑を選択する場合には罰金刑には何等触れる所がなくとも差支ないというような考は、正当とは云えないのであつて、それでは判断の過程を遺漏なく説明したことにならないのである。だから、原判決が結局のところ、右麻薬取締法第五七条第一項所定刑中の懲役刑を選択して被告人を処断しながら、その判断に到達するまでの過程を明らかにするために、判示事実に対する適用法令を示すに当り、先ず右麻薬取締法第五七条第一項の外に罰金等臨時措置法第二条第一項の規定をも掲げて、法定刑中の罰金刑の寡額につき変更されているもののある所以をも示そうとしたのは、まことに宜しき措置であつて、これを非難すべきいわれはいささかもない。
従つて、原判決には所論のごとき法令の適用を誤つた違法などは存しないものというべく、論旨第一点はおのずから理由がない。